の後《うしろ》で切れ切れに云った。雨の音の強いなかでようやく聞き取れる。
「いや、そうなっちゃ困る。私がわざわざ飛んで来た甲斐《かい》がない。小野|氏《うじ》にもだんだん事情のある事だろうから、まあ忰《せがれ》の通知しだいで、どうか、先刻御話を申したように御聞済《おききずみ》を願いたい。――自分で忰の事をかれこれ申すのは異《い》なものだが、忰は事理《わけ》の分った奴で、けっして後で御迷惑になるような取計《とりはからい》は致しますまい。御破談になった方が御為だと思えばその方を御勧めして来るでしょう。――始めて御目に懸《かか》ったのだがどうか私を御信用下さい。――もう何とか云って来る時分だが、あいにくの雨で……」
雨を衝《つ》く一|輛《りょう》の車は輪を鳴らして、格子《こうし》の前で留った。がらりと明《あ》く途端に、ぐちゃりと濡《ぬ》れた草鞋《わらじ》を沓脱《くつぬぎ》へ踏み込んだものがある。――叙述は第三の車の使命に移る。
第三の車が糸子を載《の》せたまま、甲野の門に※[#「車+隣のつくり」、第3水準1−92−48]々《りんりん》の響を送りつつ馳《か》けて来る間に、甲野さんは書斎を片
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