、ごろごろしている。それでも君より平気だ。うちの妹なんぞは神経が鈍いからだと思っている。なるほど神経も鈍いだろう。――しかしそう無神経なら今日でも、こうやって車で馳《か》けつけやしない。そうじゃないか、小野さん」
 宗近君はにこりと笑った。小野さんは笑わなかった。
「僕が君より平気なのは、学問のためでも、勉強のためでも、何でもない。時々真面目になるからさ。なるからと云うより、なれるからと云った方が適当だろう。真面目になれるほど、自信力の出る事はない。真面目になれるほど、腰が据《すわ》る事はない。真面目になれるほど、精神の存在を自覚する事はない。天地の前に自分が儼存《げんそん》していると云う観念は、真面目になって始めて得られる自覚だ。真面目とはね、君、真剣勝負の意味だよ。やっつける意味だよ。やっつけなくっちゃいられない意味だよ。人間全体が活動する意味だよ。口が巧者《こうしゃ》に働いたり、手が小器用に働いたりするのは、いくら働いたって真面目じゃない。頭の中を遺憾《いかん》なく世の中へ敲《たた》きつけて始めて真面目になった気持になる。安心する。実を云うと僕の妹も昨日《きのう》真面目になった。
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