き》がひゅうと鳴れば二人の名誉はそれぎりになる。二人の運命がいざと云う間際まで逼《せま》った時女はついに停車場へ来なかった。男は待ち耄《ぼけ》の顔を箱馬車の中に入れて、空しく家《うち》へ帰って来た。あとで聞くと朋友《ほうゆう》の誰彼が、女を抑留して、わざと約束の期を誤まらしたのだと云う。――藤尾と約束をした小野さんは、こんな風に約束を破る事が出来たら、かえって仕合《しあわせ》かも知れぬと思いつつ煙草の煙を眺めている。それに浅井の返事がまだ来ない。諾《だく》と云えばどっちへ転んでも幸《さいわい》である。否《ひ》と聞くならば、退《の》っ引《ぴ》きならぬ瀬戸際《せとぎわ》まであらかじめ押して置いて、振り返ってから、臨機応変に難関を切り抜けて行くつもりの計画だから、一刻も早く大森へ行ってしまえば済む。否《ひ》と云う返事を待つ必要は無論ない。ないが、決行する間際になると気掛りになる。頭で拵《こしら》え上げた計画を人情が崩《くず》しにかか驕B想像力が実行させぬように引き戻す。小野さんは詩人だけにもっとも想像力に富んでいる。
 想像力に富んでおればこそ、自分で断わりに行く気になれなかった。先生の顔と
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