《てくび》へ左の指を三本|懸《か》けた。小夜子は浅井のいる事も忘れて、脈をはかる先生の顔ばかり見詰めている。先生の顔は髯《ひげ》と共に日ごとに細長く瘠《や》せこけて来る。
「どうですか」と気遣《きづか》わし気《げ》に聞く。
「少し、早いようだ。やっぱり熱が除《と》れない」と額に少し皺《しわ》が寄った。先生が熱度を計って、じれったそうに不愉快な顔をするたびに小夜子は悲しくなる。夕立を野中に避けて、頼《たより》と思う一本杉をありがたしと梢《こずえ》を見れば稲妻《いなずま》がさす。怖《こわ》いと云うよりも、年を取った人に気の毒である。行き届かぬ世話から出る疳癪《かんしゃく》なら、機嫌《きげん》の取りようもある。気で勝てぬ病気のためなら孝行の尽しようがない。かりそめの風邪《かぜ》と、当人も思い、自分も苦《く》にしなかった昨日今日《きのうきょう》の咳《せき》を、蔭へ廻って聞いて見ると、医者は性質《たち》が善くないと云う。二三日で熱が退《ひ》かないと云って焦慮《じれ》るような軽い病症ではあるまい。知らせれば心配する。云わねば気で通す。その上|疳《かん》を起す。この調子で進んで行くと、一年の後《のち
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