らさもよう》の襟飾《えりかざり》と――襟飾は例に因《よ》って襟の途中まで浮き出している。――それから親譲の背広《せびろ》とをじっと眺《なが》めている。
「何を見ているんだ」
「いや」と云ったままやっぱり眺めている。
「御叔母《おば》さんに話して来《こ》ようか」
今度はいや[#「いや」に傍点]とも何とも云わずに眺めている。宗近君は椅子から腰を浮かしかかる。
「廃《よ》すが好い」
洋卓の向側《むこうがわ》から一句を明暸《めいりょう》に云い切った。
徐《おもむろ》に椅子を離れた長髪の人は右の手で額を掻《か》き上げながら、左の手に椅子の肩を抑《おさ》えたまま、亡《な》き父の肖像画の方に顔を向けた。
「母に話すくらいなら、あの肖像に話してくれ」
親譲りの背広を着た男は、丸い眼を据《す》えて、室《へや》の中に聳《そび》える、漆《うるし》のような髪の主《あるじ》を見守った。次に丸い眼を据えて、壁の上にある故人の肖像を見守った。最後に漆の髪の主と、故人の肖像とを見較《みくら》べた。見較べてしまった時、聳えたる人は瘠《や》せた肩を動かして、宗近君の頭の上から云う。――
「父は死んでいる。しかし活
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