見えた。やがて瞬《しばたた》く睫《まつげ》を絡《から》んで一雫《ひとしずく》の涙がぽたりと膝《ひざ》の上に落ちた。
「糸公、どうしたんだ。今日は天候|劇変《げきへん》で兄さんに面喰《めんくら》わしてばかりいるね」
答のない口元が結んだまましゃくんで、見るうちにまた二雫《ふたしずく》落ちた。宗近君は親譲の背広《せびろ》の隠袋《かくし》から、くちゃくちゃの手巾《ハンケチ》をするりと出した。
「さあ、御拭き」と云いながら糸子の胸の先へ押し付ける。妹は作りつけの人形のようにじっとして動かない。宗近君は右の手に手巾を差し出したまま、少し及び腰になって、下から妹の顔を覗《のぞ》き込む。
「糸公|厭《いや》なのかい」
糸子は無言のまま首を掉《ふ》った。
「じゃ、行く気だね」
今度は首が動かない。
宗近君は手巾を妹の膝の上に落したまま、身体《からだ》だけを故《もと》へ戻す。
「泣いちゃいけないよ」と云って糸子の顔を見守っている。しばらくは双方共言葉が途切れた。
糸子はようやく手巾を取上げる。粗《あら》い銘仙《めいせん》の膝が少し染《しみ》になった。その上へ、手巾の皺《しわ》を叮嚀《ていねい》
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