へでも嫁にやる訳には行かなくなると、まあこう云うんだな」
「下らない事を云うもんですね。第一甲野が家《うち》を出るなんて、そんな訳がないがな」
「家を出るって、まさか坊主になる料簡《りょうけん》でもなかろうが、つまり嫁を貰って、あの御袋の世話をするのが厭《いや》だと云うんだろうじゃないか」
「甲野が神経衰弱だから、そんな馬鹿気《ばかげ》た事を云うんですよ。間違ってる。よし出るたって――叔母さんが甲野を出して、養子をする気なんですか」
「そうなっては大変だと云って心配しているのさ」
「そんなら藤尾さんを嫁にやっても好さそうなものじゃありませんか」
「好い。好いが、万一の事を考えると私も心細くってたまらないと云うのさ」
「何が何だか分りゃしない。まるで八幡《やわた》の藪不知《やぶしらず》へ這入《はい》ったようなものだ」
「本当に――要領を得ないにも困り切る」
父《おとっ》さんは額に皺《しわ》を寄せて上眼《うわめ》を使いながら、頭を撫《な》で廻す。
「元来そりゃいつの事です」
「この間だ。今日で一週間にもなるかな」
「ハハハハ私《わたし》の及第報告は二三日|後《おく》れただけだが、父さんの
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