華厳経《けごんきょう》に外面《げめん》如菩薩《にょぼさつ》、内心《ないしん》如夜叉《にょやしゃ》と云う句がある。知ってるだろう」
「文句だけは知ってます」
「それで仏見笑と云うんだそうだ。花は奇麗だが、大変|刺《とげ》がある。触《さわ》って御覧」
「なに触らなくっても結構です」
「ハハハハ外面如菩薩、内心如夜叉。女は危ないものだ」と云いながら、老人は雁首《がんくび》の先で祥瑞《しょんずい》の中を穿《ほじく》り廻す。
「むずかしい薔薇があるもんだな」と宗近君は感心して仏見笑を眺《なが》めている。
「うん」と老人は思い出したように膝を打つ。
「一《はじめ》あの花を見た事があるかい。あの床《とこ》に挿《さ》してある」
老人はいながら、顔の向を後《うしろ》へ変える。捩《ねじ》れた頸《くび》に、行き所を失った肉が、三筋ほど括《くび》られて肩の方へ競《せ》り出して来る。
茶がかった平床《ひらどこ》には、釣竿を担《かつ》いだ蜆子和尚《けんすおしょう》を一筆《ひとふで》に描《か》いた軸《じく》を閑静に掛けて、前に青銅の古瓶《こへい》を据《す》える。鶴ほどに長い頸の中から、すいと出る二茎《ふたくき》
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