鱗《うろこ》の周囲《まわり》に擦《す》れ擦れの大きさに円《まる》を描《か》く。円と鱗の間を塗る。黒い線を一本一本|叮嚀《ていねい》に並行させて行く。母は所在なさに、忰《せがれ》の図案を慇懃《いんぎん》に眺《なが》めている。
二人の心は無論わからぬ。ただ上部《うわべ》だけはいかにも静である。もし手足《しゅそく》の挙止が、内面の消息を形而下《けいじか》に運び来《きた》る記号となり得るならば、この二人ほどに長閑《のどか》な母子《おやこ》は容易に見出し得まい。退屈の刻を、数十《すじゅう》の線に劃《かく》して、行儀よく三つ鱗の外部《そとがわ》を塗り潰す子と、尋常に手を膝の上に重ねて、一劃ごとに黒くなる円《まる》の中を、端然《たんねん》と打ち守る母とは、咸雍《かんよう》の母子である。和怡《わい》の母子である。挟《さしは》さむ洋卓に、遮《さえぎ》らるる胸と胸を対《むか》い合せて、春|鎖《とざ》す窓掛のうちに、世を、人を、争を、忘れたる姿である。亡《な》き人の肖像は例に因《よ》って、壁の上から、閑静なるこの母子を照らしている。
丹念に引く線はようやく繁《しげ》くなる。黒い部分はしだいに増す。残るは
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