。――父《おとっ》さんと宗近とは、ああ云う間柄ではあるしね」
「約束でもありゃしなかったですか」
「約束と云うほどの事はなかったよ」
「何だか父《おとっ》さんが時計をやるとか云った事があるように覚えていますが」
「時計?」と母は首を傾《かた》げた。
「父さんの金時計です。柘榴石《ガーネット》の着いている」
「ああ、そうそう。そんな事が有ったようだね」と母は思い出したごとくに云う。
「一《はじめ》はまだ当《あて》にしているようです」
「そうかい」と云ったぎり母は澄ましている。
「約束があるならやらなくっちゃ悪い。義理が欠ける」
「時計は今藤尾が預《あずか》っているから、私《わたし》から、よく、そう云って置こう」
「時計もだが、藤尾の事を重《おも》に云ってるんです」
「だって藤尾をやろうと云う約束はまるで無いんだよ」
「そうですか。――それじゃ、好いでしょう」
「そう云うと私が何だか御前の気に逆《さから》うようで悪いけれども、――そんな約束はまるで覚《おぼえ》がないんだもの」
「はああ。じゃ無いんでしょう」
「そりゃね。約束があっても無くっても、一ならやっても好いんだが、あれも外交官の試験
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