明けて四《し》になったのさ」
「もうどうかしなくっちゃならないでしょう」
「嫁の口かい」と母は簡単に念を押した。甲野さんは嫁とも聟《むこ》とも判然した答をしない。母は云う。
「藤尾の事も、実は相談したいと思っているんだが、その前にね」
「何ですか」
右の眉《まゆ》はやはり手の下に隠れている。眼の光《いろ》は深い。けれども鋭い点はどこにも見えぬ。
「どうだろう。もう一遍考え直してくれると好いがね」
「何をですか」
「御前の事をさ。藤尾も藤尾でどうかしなければならないが、御前の方を先へきめないと、母《おっか》さんが困るからね」
甲野さんは手の甲の影で片頬《かたほ》に笑った。淋《さみ》しい笑である。
「身体《からだ》が悪いと御云いだけれども、御前くらいの身体で御嫁を取った人はいくらでもあります」
「そりゃ、有るでしょう」
「だからさ。御前も、もう一遍考え直して御覧な。中には御嫁を貰って大変丈夫になった人もあるくらいだよ」
甲野さんの手はこの時始めて額を離れた。洋卓《テエブル》の上には一枚の罫紙《けいし》に鉛筆が添えて載《の》せてある。何気なく罫紙を取り上げて裏を返して見ると三四行の英語
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