いた眉の切れが三が一ほどあらわれた。黒い片髭《かたひげ》が上唇を沿うて、自然《じねん》と下りて来て、尽んとする角《かど》から、急に捲《ま》き返す。口は結んでいる。同時に黒い眸《ひとみ》は眼尻まで擦《ず》って来た。母と子はこの姿勢のうちに互を認識した。
「陰気だねえ」と母は立ちながら繰り返す。
無言の人は立ち上る。上靴を二三度床に鳴らして、洋卓の角まで足を運ばした時、始めて
「窓を明けましょうか」と緩《ゆっくり》聞いた。
「どうでも――母《おっか》さんはどうでも構わないが、ただ御前が欝陶《うっとう》しいだろうと思ってさ」
無言の人は再び右の手の平を、洋卓越に前へ出した。促《うな》がされたる母はまず椅子に着く。欽吾も腰を卸《おろ》した。
「どうだね、具合は」
「ありがとう」
「ちっとは好い方かね」
「ええ――まあ――」と生返事《なまへんじ》をした時、甲野さんは背を引いて腕を組んだ。同時に洋卓の下で、右足の甲の上へ左の外踝《そとくろぶし》を乗せる。母の眼からは、ただ裄《ゆき》の縮んだ卵色の襯衣《シャツ》の袖が正面に見える。
「身体《からだ》を丈夫にしてくれないとね、母さんも心配だから……
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