。――こっちで黙っていちゃ、いつまで立っても際限がない」
「今、書斎にいるでしょう」
母は立ち上がった。椽側《えんがわ》へ出た足を一歩《ひとあし》後《あと》へ返して、小声に
「御前、一に逢《あ》うだろう」と屈《こごみ》ながら云う。
「逢うかも知れません」
「逢ったら少し匂わして置く方が好いよ。小野さんと大森へ行くとか云っていたじゃないか。明日《あした》だったかね」
「ええ、明日の約束です」
「何なら二人で遊んで歩くところでも見せてやると好い」
「ホホホホ」
母は書斎に向う。
からりとした椽《えん》を通り越して、奇麗な木理《もくめ》を一面に研《と》ぎ出してある西洋間の戸を半分明けると、立て切った中は暗い。円鈕《ノッブ》を前に押しながら、開く戸に身を任せて、音なき両足を寄木《よせき》の床《ゆか》に落した時、釘舌《ボールト》のかちゃりと跳《は》ね返る音がする。窓掛に春を遮《さえ》ぎる書斎は、薄暗く二人を、人の世から仕切った。
「暗い事」と云いながら、母は真中の洋卓《テエブル》まで来て立ち留まる。椅子《いす》の背の上に首だけ見えた欽吾の後姿が、声のした方へ、じいっと廻り込むと、なぞえに引
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