左右に流す幅広の絹さえ、ぼんやりと近づく宵《よい》を迎えて、来る夜に紛《まぎ》れ込もうとする。先生も自分もぐずぐずすると一つ穴へはまって、影のように消えて行きそうだ。
「先生、御頼《おたのみ》の洋灯《ランプ》の台を買って来ました」
「それはありがたい。どれ」
小野さんは薄暗いなかを玄関へ出て、台と屑籠《くずかご》を持ってくる。
「はあ――何だか暗くってよく見えない。灯火《あかり》を点《つ》けてから緩《ゆっ》くり拝見しよう」
「私が点《つ》けましょう。洋灯《ランプ》はどこにありますか」
「気の毒だね。もう帰って来る時分だが。じゃ椽側へ出ると右の戸袋のなかにあるから頼もう。掃除はもうしてあるはずだ」
薄暗い影が一つ立って、障子《しょうじ》をすうと明ける。残る影はひそかに手を拱《こまぬ》いて動かぬほどを、夜は襲《おそ》って来る。六畳の座敷は淋《さみ》しい人を陰気に封じ込めた。ごほんごほんと咳をせく。
やがて椽《えん》の片隅で擦《す》る燐寸《マッチ》の音と共に、咳はやんだ。明るいものは室《へや》のなかに動いて来る。小野さんは洋袴《ズボン》の膝を折って、五分心《ごぶじん》を新らしい台の上に
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