たまま動かない。まだ白状しない気かと云う眼つきをして小野さんを見ている。宗盛《むねもり》と云う人は刀を突きつけられてさえ腹を切らなかったと云う。利害を重んずる文明の民が、そう軽卒に自分の損になる事を陳述する訳がない。小野さんはもう少し敵の動静を審《つまびらか》にする必要がある。
「誰か御伴《おつれ》がありましたか」と何気なく聴いて見る。
 今度は女の返事がない。どこまでも一つ関所を守っている。
「今、門の所で甲野さんに逢ったら、甲野さんもいっしょに行ったそうですね」
「それほど知っていらっしゃる癖に、何で御尋ねになるの」と女はつんと拗《す》ねた。
「いえ、別に御伴でもあったのかと思って」と小野さんは、うまく逃げる。
「兄の外《ほか》にですか」
「ええ」
「兄に聞いて御覧になればいいのに」
 機嫌は依然として悪いが、うまくすると、どうか、こうか渦《うず》の中を漕《こ》ぎ抜けられそうだ。向うの言葉にぶら下がって、往ったり来たりするうちに、いつの間《ま》にやら平地《ひらち》へ出る事がある。小野さんは今まで毎度この手で成功している。
「甲野君に聞こうと思ったんですけれども、早く上がろうとして急
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