ぐりよ》せる。黙っていれば悟られずに、行き抜ける便《たより》もあるに、隠そうとする身繕《みづくろい》、名繕、さては素性《すじょう》繕に、疑《うたがい》の眸《ひとみ》の征矢《そや》はてっきり的《まと》と集りやすい。繕は綻《ほころ》びるを持前とする。綻びた下から醜い正体が、それ見た事かと、現われた時こそ、身の※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]《さび》は生涯《しょうがい》洗われない。――小野さんはこれほどの分別を持った、利害の関係には暗からぬ利巧者《りこうもの》である。西東隔たる京を縫うて、五年の長き思の糸に括《くく》られているわが情実は、目の前にすねて坐った当人には話したくない。少なくとも新らしい血に通《かよ》うこの頃の恋の脈が、調子を合せて、天下晴れての夫婦ぞと、二人の手頸《てくび》に暖たかく打つまでは話したくない。この情実を話すまいとすると、ただの女と不知《しら》を切る当座の嘘は吐《つ》きたくない。嘘を吐くまいとすると、小夜子の事は名前さえも打ち明けたくない。――小野さんはしきりに藤尾の様子を眺めている。
「昨夕《ゆうべ》博覧会へ御出《おいで》に……」とまで思い切った小野さんは
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