庭の面を眺《なが》めている。藤尾が椽の柱に倚りかかるよほど前から、謎《なぞ》の女は立て切った一間《ひとま》のうちで、鳴る鉄瓶《てつびん》を相手に、行く春の行き尽さぬ間《ま》を、根限《こんかぎ》り考えている。
欽吾はわが腹を痛めぬ子である。――謎の女の考《かんがえ》は、すべてこの一句から出立する。この一句を布衍《ふえん》すると謎の女の人生観になる。人生観を増補すると宇宙観が出来る。謎の女は毎日鉄瓶の音《ね》を聞いては、六畳敷の人生観を作り宇宙観を作っている。人生観を作り宇宙観を作るものは閑《ひま》のある人に限る。謎の女は絹布団の上でその日その日を送る果報な身分である。
居住《いずまい》は心を正す。端然《たんねん》と恋に焦《こが》れたもう雛《ひいな》は、虫が喰うて鼻が欠けても上品である。謎の女はしとやかに坐る。六畳敷の人生観もまたしとやかでなくてはならぬ。
老いて夫《おっと》なきは心細い。かかるべき子なきはなおさら心細い。かかる子が他人なるは心細い上に忌《いま》わしい。かかるべき子を持ちながら、他人にかからねばならぬ掟《おきて》は忌わしいのみか情《なさ》けない。謎の女は自《みずから》
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