……」
「行きたまえ。藤尾はいる」と甲野さんは素直に相手を通す気である。小野さんは躊躇《ちゅうちょ》する。
「君はどこへ」とまた聞き直す。君の妹には用があるが、君はどうなっても構わないと云う態度は小野さんの取るに忍びざるところである。
「僕か、僕はどこへ行くか分らない。僕がこの杖を引っ張り廻すように、何かが僕を引っ張り廻すだけだ」
「ハハハハだいぶ哲学的だね。――散歩?」と下から覗《のぞ》き込《こ》んだ。
「ええ、まあ……好い天気だね」
「好い天気だ。――散歩より博覧会はどうだい」
「博覧会か――博覧会は――昨夕《ゆうべ》見た」
「昨夕行ったって?」と小野さんの眼は一時に坐る。
「ああ」
 小野さんはああ[#「ああ」に傍点]の後から何か出て来るだろうと思って、控えている。時鳥《ほととぎす》は一声で雲に入ったらしい。
「一人で行ったのかい」と今度はこちらから聞いて見る。
「いいや。誘われたから行った」
 甲野さんにははたして連《つれ》があった。小野さんはもう少し進んで見なければ済まないようになる。
「そうかい、奇麗だったろう」とまず繋《つな》ぎに出して置いて、そのうちに次の問を考える事に
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