の眼に這入《はい》る。足袋の主は見なくても知れている。
紺足袋は静かに歩いて来た。
「藤尾」
声は後《うしろ》でする。雨戸の溝《みぞ》をすっくと仕切った栂《つが》の柱を背に、欽吾は留ったらしい。藤尾は黙っている。
「また夢か」と欽吾は立ったまま、癖のない洗髪《あらいがみ》を見下《みおろ》した。
「何です」と云いなり女は、顔を向け直した。赤棟蛇《やまかがし》の首を擡《もた》げた時のようである。黒い髪に陽炎《かげろう》を砕く。
男は、眼さえ動かさない。蒼《あお》い顔で見下《みおろ》している。向き直った女の額をじっと見下している。
「昨夕《ゆうべ》は面白かったかい」
女は答える前に熱い団子をぐいと嚥《の》み下《くだ》した。
「ええ」と極めて冷淡な挨拶《あいさつ》をする。
「それは好かった」と落ちつき払って云う。
女は急《せ》いて来る。勝気な女は受太刀だなと気がつけば、すぐ急いて来る。相手が落ちついていればなお急いて来る。汗を流して斬り込むならまだしも、斬り込んで置きながら悠々《ゆうゆう》として柱に倚《よ》って人を見下しているのは、酒を飲みつつ胡坐《あぐら》をかいて追剥《おいはぎ》を
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