ろ》の毛織の襯衣《シャツ》が、長い三角を逆様《さかさま》にして胸に映《うつ》る上に、長い頸《くび》がある、長い顔がある。顔の色は蒼《あお》い。髪は渦《うず》を捲《ま》いて、二三ヵ月は刈らぬと見える。四五日は櫛《くし》を入れないとも思われる。美くしいのは濃い眉《まゆ》と口髭《くちひげ》である。髭の質《たち》は極《きわ》めて黒く、極めて細い。手を入れぬままに自然の趣を具《そな》えて何となく人柄に見える。腰は汚《よご》れた白縮緬《しろちりめん》を二重《ふたえ》に周《まわ》して、長過ぎる端《はじ》を、だらりと、猫じゃらしに、右の袂《たもと》の下で結んでいる。裾《すそ》は固《もと》より合わない。引き掛けた法衣《ころも》のようにふわついた下から黒足袋《くろたび》が見える。足袋だけは新らしい。嗅《か》げば紺《こん》の匂がしそうである。古い頭に新らしい足の欽吾《きんご》は、世を逆様に歩いて、ふらりと椽側《えんがわ》へ出た。
 拭き込んだ細かい柾目《まさめ》の板が、雲斎底《うんさいぞこ》の影を写すほどに、軽く足音を受けた時に、藤尾の背中に背負《せお》った黒い髪はさらりと動いた。途端に椽に落ちた紺足袋が女
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