仕栄《しばえ》がない」
「世話もしない癖に」
「ハハハハ実は狐の袖無《ちゃんちゃん》の御礼に、近日御花見にでも連れて行こうかと思っていたところだよ」
「もう花は散ってしまったじゃありませんか。今時分御花見だなんて」
「いえ、上野や向島《むこうじま》は駄目だが荒川《あらかわ》は今が盛《さかり》だよ。荒川から萱野《かやの》へ行って桜草を取って王子へ廻って汽車で帰ってくる」
「いつ」と糸子は縫う手をやめて、針を頭へ刺す。
「でなければ、博覧会へ行って台湾館で御茶を飲んで、イルミネーションを見て電車で帰る。――どっちが好い」
「わたし、博覧会が見たいわ。これを縫ってしまったら行きましょう。ね」
「うん。だから兄さんを大事にしなくっちゃあ行けないよ。こんな親切な兄さんは日本中に沢山《たんと》はないぜ」
「ホホホホへえ、大事に致します。――ちょっとその物指を借《か》してちょうだい」
「そうして裁縫《しごと》を勉強すると、今に御嫁に行くときに金剛石《ダイヤモンド》の指環《ゆびわ》を買ってやる」
「旨《うま》いのねえ、口だけは。そんなに御金があるの」
「あるのって、――今はないさ」
「いったい兄さんは
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