願ったり叶《かな》ったりで、この上もない結構な事でございますが、ただ彼人《あれ》に困りますので。一さんは宗近家を御襲《おつ》ぎになる大事な身体でいらっしゃる。藤尾が御気に入るか、入らないかは分りませんが、まず貰っていただいたと致したところで、差し上げた後で、欽吾がやはり今のようでは私も実のところはなはだ心細いような訳で……」
「アハハハそう心配しちゃ際限がありませんよ。藤尾さんさえ嫁に行ってしまえば欽吾さんにも責任が出る訳だから、自然と考もちがってくるにきまっている。そうなさい」
「そう云うものでございましょうかね」
「それに御承知の通、阿父《おとっさん》がいつぞやおっしゃった事もあるし。そうなれば亡《な》くなった人も満足だろう」
「いろいろ御親切にありがとう存じます。なに配偶《つれあい》さえ生きておりますれば、一人で――こん――こんな心配は致さなくっても宜《よろ》しい――のでございますが」
謎の女の云う事はしだいに湿気《しっけ》を帯びて来る。世に疲れたる筆はこの湿気を嫌う。辛《かろ》うじて謎の女の謎をここまで叙し来《きた》った時、筆は、一歩も前へ進む事が厭《いや》だと云う。日を作り
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