今さら愚癡《ぐち》をこぼしたって仕方がないとは思いますが、なまじい自分の腹を痛めた子でないだけに、世間へ対しても心配になりまして……」
「ごもっともで」と宗近老人は真面目《まじめ》に答えたが、ついでに灰吹《はいふき》をぽんと敲《たた》いて、銀の延打《のべうち》の煙管《きせる》を畳の上にころりと落す。雁首《がんくび》から、余る煙が流れて出る。
「どうです、京都から帰ってから少しは好いようじゃありませんか」
「御蔭様で……」
「せんだって家《うち》へ見えた時などは皆《みんな》と馬鹿話をして、だいぶ愉快そうでしたが」
「へええ」これは仔細《しさい》らしく感心する。「まことに困り切ります」これは困り切ったように長々と引き延ばして云う。
「そりゃ、どうも」
「彼人《あれ》の病気では、今までどのくらい心配したか分りません」
「いっそ結婚でもさせたら気が変って好いかも知れませんよ」
 謎《なぞ》の女は自分の思う事を他《ひと》に云わせる。手を下《くだ》しては落度になる。向うで滑《すべ》って転ぶのをおとなしく待っている。ただ滑るような泥海《ぬかるみ》を知らぬ間《ま》に用意するばかりである。
「その結婚の
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