が手に取るように聞える。
 家は小野さんが孤堂《こどう》先生のために周旋したに相違ない。しかし極《きわ》めて下卑《げび》ている。小野さんは心のうちに厭《いや》な住居《すまい》だと思った。どうせ家を持つならばと思った。袖垣《そでがき》に辛夷《こぶし》を添わせて、松苔《まつごけ》を葉蘭《はらん》の影に畳む上に、切り立ての手拭《てぬぐい》が春風に揺《ふ》らつくような所に住んで見たい。――藤尾はあの家を貰うとか聞いた。
「御蔭《おかげ》さまで、好い家《うち》が手に入りまして……」と誇る事を知らぬ小夜子は云う。本当に好い家と心得ているなら情《なさ》けない。ある人に奴鰻《やっこうなぎ》を奢《おご》ったら、御蔭様で始めて旨《うま》い鰻を食べましてと礼を云った。奢った男はそれより以来この人を軽蔑《けいべつ》したそうである。
 いじらしい[#「いじらしい」に傍点]のと見縊《みくび》るのはある場合において一致する。小野さんはたしかに真面目に礼を云った小夜子を見縊った。しかしそのうちに露いじらしい[#「いじらしい」に傍点]ところがあるとは気がつかなかった。紫が祟《たた》ったからである。祟があると眼玉が三角に
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