《ふじお》の指輪とは無論比較にはならぬ。
小野さんは眼を上げて部屋の中を見廻わした。低い天井《てんじょう》の白茶けた板の、二た所まで節穴《ふしあな》の歴然《れっき》と見える上、雨漏《あまもり》の染《し》みを侵《おか》して、ここかしこと蜘蛛《くも》の囲《い》を欺《あざむ》く煤《すす》がかたまって黒く釣りを懸《か》けている。左から四本目の桟の中ほどを、杉箸《すぎばし》が一本横に貫ぬいて、長い方の端《はじ》が、思うほど下に曲がっているのは、立ち退《の》いた以前の借主が通す縄に胸を冷やす氷嚢《ひょうのう》でもぶら下げたものだろう。次の間《ま》を立て切る二枚の唐紙《からかみ》は、洋紙に箔《はく》を置いて英吉利《イギリス》めいた葵《あおい》の幾何《きか》模様を規則正しく数十個並べている。屋敷らしい縁《ふち》の黒塗がなおさら卑しい。庭は二た間を貫ぬく椽《えん》に沿うて勝手に折れ曲ると云う名のみで、幅は茶献上《ちゃけんじょう》ほどもない。丈《じょう》に足らぬ檜《ひのき》が春に用なき、去年の葉を硬《かた》く尖《とが》らして、瘠《や》せこけて立つ後《うし》ろは、腰高塀《こしだかべい》に隣家《となり》の話
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