《たまご》を生む事も知らぬとあったそうだ。もっともである。
「外交官の試験に落第したって、ちっとも恥ずかしがらないんですよ。普通《なみ》のものなら、もう少し奮発する訳ですがねえ」
「鉄砲玉だよ」
 意味は分からない。ただ思い切った評である。藤尾は滑《なめ》らかな頬《ほお》に波を打たして、にやりと笑った。藤尾は詩を解する女である。駄菓子の鉄砲玉は黒砂糖を丸めて造る。砲兵工廠《ほうへいこうしょう》の鉄砲玉は鉛を鎔《と》かして鋳《い》る。いずれにしても鉄砲玉は鉄砲玉である。そうして母は飽《あ》くまでも真面目《まじめ》である。母には娘の笑った意味が分からない。
「御前はあの人をどう思ってるの」
 娘の笑は、端《はし》なくも母の疑問を起す。子を知るは親に若《し》かずと云う。それは違っている。御互に喰い違っておらぬ世界の事は親といえども唐《から》、天竺《てんじく》である。
「どう思ってるって……別にどうも思ってやしません」
 母は鋭どき眉《まゆ》の下から、娘を屹《きっ》と見た。意味は藤尾にちゃんと分っている。相手を知るものは騒がず。藤尾はわざと落ちつき払って母の切って出るのを待つ。掛引は親子の間に
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