劃《かく》し左に劃す。怒《いかり》の中心より画《えが》き去る円は飛ぶがごとくに速《すみや》かに、恋の中心より振り来《きた》る円周は※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《ほのお》の痕《あと》を空裏《くうり》に焼く。あるものは道義の糸を引いて動き、あるものは奸譎《かんきつ》の圜《かん》をほのめかして回《めぐ》る。縦横に、前後に、上下《しょうか》四方に、乱れ飛ぶ世界と世界が喰い違うとき秦越《しんえつ》の客ここに舟を同じゅうす。甲野《こうの》さんと宗近《むねちか》君は、三春行楽《さんしゅんこうらく》の興尽きて東に帰る。孤堂《こどう》先生と小夜子《さよこ》は、眠れる過去を振り起して東に行く。二個の別世界は八時発の夜汽車で端《はし》なくも喰い違った。
 わが世界とわが世界と喰い違うとき腹を切る事がある。自滅する事がある。わが世界と他《ひと》の世界と喰い違うとき二つながら崩れる事がある。破《か》けて飛ぶ事がある。あるいは発矢《はっし》と熱を曳《ひ》いて無極のうちに物別れとなる事がある。凄《すさ》まじき喰い違い方が生涯《しょうがい》に一度起るならば、われは幕引く舞台に立つ事なくして自《お
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