日の、たちまちに影を失うかと思えば舟は早くも山峡《さんきょう》に入る。保津の瀬はこれからである。
「いよいよ来たぜ」と宗近君は船頭の体《たい》を透《す》かして岩と岩の逼《せま》る間を半丁の向《むこう》に見る。水はごうと鳴る。
「なるほど」と甲野さんが、舷《ふなばた》から首を出した時、船ははや瀬の中に滑《すべ》り込んだ。右側の二人はすわと波を切る手を緩《ゆる》める。櫂《かい》は流れて舷に着く。舳《へさき》に立つは竿《さお》を横《よこた》えたままである。傾《かた》むいて矢のごとく下る船は、どどどと刻《きざ》み足に、船底に据えた尻に響く。壊《こ》われるなと気がついた時は、もう走る瀬を抜けだしていた。
「あれだ」と宗近君が指《ゆびさ》す後《うし》ろを見ると、白い泡《あわ》が一町ばかり、逆《さ》か落しに噛《か》み合って、谷を洩《も》る微《かす》かな日影を万顆《ばんか》の珠《たま》と我勝《われがち》に奪い合っている。
「壮《さか》んなものだ」と宗近君は大いに御意《ぎょい》に入った。
「夢窓国師とどっちがいい」
「夢窓国師よりこっちの方がえらいようだ」
 船頭は至極《しごく》冷淡である。松を抱く巌《
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