然《べきぜん》たる爆発物が抛《な》げ出されるか、抛げ出すか、動かざる二人の身体《からだ》は二塊《ふたかたまり》の※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《ほのお》である。
「御帰りいっ」と云う声が玄関に響くと、砂利《じゃり》を軋《きし》る車輪がはたと行き留まった。襖《ふすま》を開ける音がする。小走りに廊下を伝う足音がする。張り詰めた二人の姿勢は崩《くず》れた。
「母が帰って来たのです」と女は坐《すわ》ったまま、何気なく云う。
「ああ、そうですか」と男も何気なく答える。心を判然《はっき》と外に露《あら》わさぬうちは罪にはならん。取り返しのつく謎《なぞ》は、法庭《ほうてい》の証拠としては薄弱である。何気なく、もてなしている二人は、互に何気のあった事を黙許しながら、何気なく安心している。天下は太平である。何人《なんびと》も後指《うしろゆび》を指《さ》す事は出来ぬ。出来れば向うが悪《わ》るい。天下はあくまでも太平である。
「御母《おっか》さんは、どちらへか行らしったんですか」
「ええ、ちょっと買物に出掛けました」
「だいぶ御邪魔をしました」と立ち懸《か》ける前に居住《いずまい》をちょっと繕《つく》ろい直す。洋袴《ズボン》の襞《ひだ》の崩れるのを気にして、常は出来るだけ楽に坐る男である。いざと云えば、突《つ》っかい棒《ぼう》に、尻を挙げるための、膝頭《ひざがしら》に揃《そろ》えた両手は、雪のようなカフスに甲《こう》まで蔽《おお》われて、くすんだ鼠縞《ねずみじま》の袖の下から、七宝《しっぽう》の夫婦釦《めおとボタン》が、きらりと顔を出している。
「まあ御緩《ごゆっ》くりなさい。母が帰っても別に用事はないんですから」と女は帰った人を迎える気色《けしき》もない。男はもとより尻を上げるのは厭《いや》である。
「しかし」と云いながら、隠袋《かくし》の中を捜《さ》ぐって、太い巻煙草《まきたばこ》を一本取り出した。煙草の煙は大抵のものを紛《まぎ》らす。いわんやこれは金の吸口の着いた埃及産《エジプトさん》である。輪に吹き、山に吹き、雲に吹く濃き色のうちには、立ち掛けた腰を据《す》え直して、クレオパトラと自分の間隔を少しでも詰《つづ》める便《たより》が出来んとも限らぬ。
薄い煙りの、黒い口髭《くちひげ》を越して、ゆたかに流れ出した時、クレオパトラは果然、
「まあ、御坐り遊ばせ」と叮
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