琴のそら音
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)洋灯《ランプ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)少々|肥《ふと》った
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「山/歸」、第3水準1−47−93]
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「珍らしいね、久しく来なかったじゃないか」と津田君が出過ぎた洋灯《ランプ》の穂を細めながら尋ねた。
津田君がこう云《い》った時、余《よ》ははち切れて膝頭《ひざがしら》の出そうなズボンの上で、相馬焼《そうまやき》の茶碗《ちゃわん》の糸底《いとそこ》を三本指でぐるぐる廻しながら考えた。なるほど珍らしいに相違ない、この正月に顔を合せたぎり、花盛りの今日《きょう》まで津田君の下宿を訪問した事はない。
「来《き》よう来《き》ようと思いながら、つい忙がしいものだから――」
「そりゃあ、忙がしいだろう、何と云っても学校にいたうちとは違うからね、この頃でもやはり午後六時までかい」
「まあ大概そのくらいさ、家《うち》へ帰って飯を食うとそれな
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