す。
よく誤解される事がありますので、そんな事があっては済みませんから、ちょっと注意を申述《もうしの》べて置きます。教育といえばおもに学校教育であるように思われますが、今私の教育というのは社会教育|及《および》家庭教育までも含んだものであります。
また私のここにいわゆる文芸は文学である、日本における文学といえば先《まず》小説|戯曲《ぎきょく》であると思います。順序は矛盾しましたが、広義の教育、殊に、徳育とそれから文学の方面殊に、小説戯曲との関係連絡の状態についてお話致します。日本における教育を昔と今とに区別して相《あい》比較するに、昔の教育は、一種の理想を立て、その理想を是非実現しようとする教育である。しこうして、その理想なるものが、忠とか孝とかいう、一種抽象した概念を直《ただ》ちに実際として、即ち、この世にあり得るものとして、それを理想とさせた、即ち孔子を本家《ほんけ》として、全然その通りにならなくともとにかくそれを目あてとして行くのであります。
なお委《くわ》しくいいますと聖人といえば孔子、仏《ほとけ》といえば釈迦《しゃか》、節婦《せっぷ》貞女忠臣孝子は、一種の理想の固《かた
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