京に着ける夕
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)貫《つらぬ》いて

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)月|円《まる》きに乗じて、

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 汽車は流星の疾《はや》きに、二百里の春を貫《つらぬ》いて、行くわれを七条《しちじょう》のプラットフォームの上に振り落す。余《よ》が踵《かかと》の堅き叩《たた》きに薄寒く響いたとき、黒きものは、黒き咽喉《のど》から火の粉《こ》をぱっと吐《は》いて、暗い国へ轟《ごう》と去った。
 たださえ京は淋《さび》しい所である。原に真葛《まくず》、川に加茂《かも》、山に比叡《ひえ》と愛宕《あたご》と鞍馬《くらま》、ことごとく昔のままの原と川と山である。昔のままの原と川と山の間にある、一条、二条、三条をつくして、九条に至っても十条に至っても、皆昔のままである。数えて百条に至り、生きて千年に至るとも京は依然として淋しかろう。この淋しい京を、春寒《はるさむ》の宵《よい》に、とく走る汽車から会釈《えしゃく》なく振り落された余は、淋しいながら、寒いながら通らねばならぬ。南から北へ――町が尽きて、家が尽きて、
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