物を着た御嫁さんなんかがいるんだから、もったいない。光秀はなぜ百姓みたように竹槍《たけやり》を製造するんですか。
 木更津《きさらづ》汐干《しおひ》の場の色彩はごちゃごちゃして一見|厭《いや》になりました。御成街道《おなりかいどう》にペンキ屋の長い看板があるから見て、御覧なさい。
 楠一族の色彩ははなはだよろしい。第一調和しているようです。正成の細君は品があってよござんす、あの子も好い。みんな好い色だ。
 私の厭なところと、好《すき》なところを性質から区別して並べて御覧に入れました。これで私が芝居を見ている時の順慶流の気持が少し説明ができたつもりですが、まだこのほかにもなかなかあります。それは他日御面会の節に譲ります。不折は男性、女性、中性を見ずに帰りましたね。不折は奴的《やっこてき》の画が好きなんだろうと思います。凡鳥君によろしく。以上。
六月十二日



底本:「夏目漱石全集10」ちくま文庫、筑摩書房
   1988(昭和63)年7月26日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版夏目漱石全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年4月〜1972(昭和47)年1月にかけて刊行
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