博士の功績に応じて、他の学者もまた適当の名誉を荷《にな》うのが正当であるのに、他の学者は木村博士の表彰前と同じ暗黒な平面に取り残されて、ただ一の木村博士のみが、今日まで学者間に維持せられた比較的位地を飛び離れて、衆目の前に独り偉大に見えるようになったのは少なくとも道義的の不公平を敢てして、一般の社会に妙な誤解を与うる好意的な悪結果である。
 社会はただ新聞紙の記事を信じている。新聞紙はただ学士会院の所置《しょち》を信じている。学士会院は固《もと》より己《おの》れを信じているのだろう。余といえども木村項の名誉ある発見たるを疑うものではない。けれども学士会院がその発見者に比較的の位置を与える工夫《くふう》を講じないで、徒《いたず》らに表彰の儀式を祭典の如く見せしむるため被賞者に絶対の優越権を与えるかの如き挙に出でたのは、思慮の周密《しゅうみつ》と弁別《べんべつ》の細緻《さいち》を標榜《ひょうぼう》する学者の所置としては、余の提供にかかる不公平の非難を甘んじて受ける資格があると思う。
 学士会院が栄誉ある多数の学者中より今年はまず木村氏だけを選んで、他は年々順次に表彰するという意を当初から持
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