学者と名誉
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)木村項《きむらこう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)発見者|木村《きむら》博士
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]
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木村項《きむらこう》の発見者|木村《きむら》博士の名は驚くべき速力を以て旬日《じゅんじつ》を出ないうちに日本全国に広がった。博士の功績を表彰《ひょうしょう》した学士会院《がくしかいいん》とその表彰をあくまで緊張して報道する事を忘れなかった都下の各新聞は、久しぶりにといわんよりはむしろ初めて、純粋の科学者に対して、政客、軍人、及び実業家に譲らぬ注意を一般社会から要求した。学問のためにも賀すべき事で、博士のためにも喜ばしき事に違《ちがい》ない。
けれども今より一カ月前に、この木村博士が何処に何をしているかを知っていたものは、全国を通じて僅か百人を出ぬ位であったろう。博士が忽然《こつぜん》と著名になったのは、今までまるで人の眼に触れないで経過した科学界という暗黒な人世《じんせい》の象面《しょうめん》に、一点急に輝
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