。歩くたびにキルトの襞が揺れて、膝と股《もも》の間がちらちら出る。肉の色に恥を置かぬ昔の袴である。
主人は毛皮で作った、小さい木魚《もくぎょ》ほどの蟇口《がまぐち》を前にぶら下げている。夜|煖炉《だんろ》の傍《そば》へ椅子を寄せて、音のする赤い石炭を眺めながら、この木魚の中から、パイプを出す、煙草《たばこ》を出す。そうしてぷかりぷかりと夜長《よなが》を吹かす。木魚《もくぎょ》の名をスポーランと云う。
主人といっしょに崖《がけ》を下りて、小暗《おぐら》い路《みち》に這入《はい》った。スコッチ・ファーと云う常磐木《ときわぎ》の葉が、刻《きざ》み昆布《こんぶ》に雲が這《は》いかかって、払っても落ちないように見える。その黒い幹をちょろちょろと栗鼠《りす》が長く太った尾を揺《ふ》って、駆《か》け上《のぼ》った。と思うと古く厚みのついた苔《こけ》の上をまた一匹、眸《ひとみ》から疾《と》く駆《か》け抜けたものがある。苔は膨《ふく》れたまま動かない。栗鼠の尾は蒼黒《あおぐろ》い地《じ》を払子《ほっす》のごとくに擦《す》って暗がりに入った。
主人は横をふり向いて、ピトロクリの明るい谷を指《ゆび》さ
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