した。大変な損でさあ。――虫の食ったんですか。いまいましいから、みんな打遣《うっちゃ》って来ました。支那人の事ですから、やっぱり知らん顔をして、俵にして、おおかた本国へ送ったでげしょう。
「それから薩摩芋《さつまいも》を買い込んだこともありまさあ。一俵四円で、二千俵の契約でね。ところが注文の来たのが月半《つきなかば》、十四日でして二十五日までにと云うんだから、どう骨を折ったって二千俵と云う数が寄りっこありませんや。とうてい駄目だからって、一応断りました。実を云うと残念でしたがな。すると商館の番頭がいうには、否《いや》契約書には二十五日とあるけれども、けっしてその通りには厳行しないからと、再三|勧《すす》めるもんだから、ついその気になりましてね。――いえ芋《いも》は支那へ行くんじゃありません。亜米利加《アメリカ》でした。やッぱり亜米利加にも薩摩芋を食う奴があると見えるんですよ。妙な事があるもんで、――で、さっそく買収にかかりました。埼玉から川越《かわごえ》の方をな。だが口でこそ二千俵ですが、いざ買い占めるとなるとなかなか大したもんですからな。でもようやくの事で、とうとう二十八日過ぎに約束
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