たちまち親しくなってしまった。K君の部屋は美くしい絨※[#「疉+毛」、第4水準2−78−16]《じゅうたん》が敷いてあって、白絹《しらぎぬ》の窓掛《まどかけ》が下がっていて、立派な安楽椅子とロッキング・チェアが備えつけてある上に、小さな寝室が別に附属している。何より嬉《うれ》しいのは断えず煖炉《ストーブ》に火を焚《た》いて、惜気《おしげ》もなく光った石炭を崩《くず》している事である。
 これから自分はK君の部屋で、K君と二人で茶を飲むことにした。昼はよく近所の料理店《りょうりや》へいっしょに出かけた。勘定《かんじょう》は必ずK君が払ってくれた。K君は何でも築港の調査に来ているとか云って、だいぶ金を持っていた。家《うち》にいると、海老茶《えびちゃ》の繻子《しゅす》に花鳥の刺繍《ぬいとり》のあるドレッシング・ガウンを着て、はなはだ愉快そうであった。これに反して自分は日本を出たままの着物がだいぶ汚《よご》れて、見共《みとも》ない始末であった。K君はあまりだと云って新調の費用を貸してくれた。
 二週間の間K君と自分とはいろいろな事を話した。K君が、今に慶応内閣《けいおうないかく》を作るんだと云
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