岡本一平著並画『探訪画趣』序
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)興味を有《も》っている
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)随分|無頓着《むとんじゃく》な
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私は朝日新聞に出るあなたの描いた漫画に多大な興味を有《も》っている一人であります。いつか社の鎌田君に其話をして、あれなりにして捨ててしまうのは惜しいものだ、今のうちに纏《まと》めて出版したら可《よ》かろうにと云った事があります。其後あなた自身が見えた時、私はあなたに自分の描いたものはみんな保存してあるでしょうねと聞いたら、あなたは大抵散逸してしまったように答えられたので私は驚ろきました。尤《もっと》もそういう私も随分|無頓着《むとんじゃく》な方で、俳句などになると、作れば作ったなりで、手帳にも何にも書き留めて置かないために、一寸《ちょっと》短冊などを突きつけられて、忘れたものを思い出すのに骨の折れる場合もありますが、それは私がその道に重きを置いていない結果だから、仕方がありませんが、貴方《あなた》の画は私の俳句よりも大事にして然るべきだと私はかねてから思っていたのだから、それを揃《そろ》えて置かない貴方の料簡《りょうけん》が私には解らなかったのです。
あなたは私に云われて始めて気が付いたように工場の中を探し廻ったというじゃありませんか。そうして漸《ようや》くそれを出版する丈《だけ》に纏《まと》めたのだそうですね。左右《そう》なればあなたの労力が単独に世間に紹介されるという点に於《おい》て、あなたも満足でしょう、最初勧誘した責任のある私も喜ばしく思います。私ばかりではありません、世の中には私と同感のものがまだ沢山《たくさん》あるに違ないのです。
普通漫画というものには二た通りあるようです。一つは世間の事相に頓着《とんじゃく》しない芸術家自身の趣味なり嗜好《しこう》なりを表現するもので、一つは時事につれて其日々々の出来事を、ある意味の記事同様に描き去るのです。時と推し移る新聞には、無論後者の方が大切でしょうが、あなたはその方面に於ての成功者じゃなかろうかと私は考えるのです。私が最初あなたに勧めて、年中行事というようなものを順次にならべて一巻にしたら何《ど》うだろうと云ったのは、是《これ》がためなのです。見る人は無論あなたの画から、何時《い
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