の地下にはカーライルの愛犬ニロが葬むられております。ニロは千八百六十年二月一日に死にました。墓標も当時は存しておりましたが惜しいかなその後取払われました」と中々|精《くわ》しい。
カーライルが麦藁帽《むぎわらぼう》を阿弥陀《あみだ》に被《かぶ》って寝巻姿のまま啣《くわ》え煙管《ぎせる》で逍遥《しょうよう》したのはこの庭園である。夏の最中《もなか》には蔭深き敷石の上にささやかなる天幕《テント》を張りその下に机をさえ出して余念もなく述作に従事したのはこの庭園である。星|明《あきら》かなる夜《よ》最後の一ぷくをのみ終りたる後、彼が空を仰いで「嗚呼《ああ》余が最後に汝《なんじ》を見るの時は瞬刻の後《のち》ならん。全能の神が造れる無辺大の劇場、眼に入《い》る無限、手に触《ふ》るる無限、これもまた我が眉目を掠《かす》めて去らん。しかして余はついにそを見るを得ざらん。わが力を致せるや虚ならず、知らんと欲するや切なり。しかもわが知識はただかくのごとく微《び》なり」と叫んだのもこの庭園である。
余は婆さんの労に酬《むく》ゆるために婆さんの掌《てのひら》の上に一片《いっぺん》の銀貨を載《の》せた。あり
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