|齷齪《あくせく》するにもかかわらず、夜番の方では頻《しき》りに刀と具足の不足を訴えている。われらは渾身《こんしん》の気力を挙げて、われらが過去を破壊しつつ、斃《たお》れるまで前進するのである。しかもわれらが斃れる時、われらの烟突《えんとつ》が西洋の烟突の如く盛んな烟《けむ》りを吐《は》き、われらの汽車が西洋の汽車の如く広い鉄軌《てっき》を走り、われらの資本が公債となって西洋に流用せられ、われらの研究と発明と精神事業が畏敬《いけい》を以て西洋に迎えらるるや否やは、どう己惚《うぬぼ》れても大いなる疑問である。マードック先生がわれらの現在に驚嘆してわれらの過去を研究されると同時に、われらはわれらの現在から刻々に追い捲《まく》られて、われらの未来をかくの如く悲観している。余はわれらの過去に対する先生の著書を紹介するのついでを以て、われらの運命に関しての未来観をも一言《いちごん》先生に告げて置きたいと思う。
[#地から2字上げ]――明治四四、三、一六―一七『東京朝日新聞』――
底本:「漱石文明論集」岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年10月16日第1刷発行
1998(平
前へ
次へ
全9ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング