マードック先生の『日本歴史』
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)約《やく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その後|日《ひ》ならずして
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「彳+低のつくり」、第3水準1−84−31]徊《ていかい》
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上
先生は約《やく》の如く横浜総領事を通じてケリー・エンド・ウォルシから自著の『日本歴史』を余に送るべく取り計《はから》われたと見えて、約七百頁の重い書物がその後|日《ひ》ならずして余の手に落ちた。ただしそれは第一巻であった。そうして巻末に明治四十三年五月発行と書いてあるので、余は始めてこの書に対する出版順序に関しての余の誤解を覚《さと》った。
先生はわが邦《くに》歴史のうちで、葡萄牙《ポルトガル》人が十六世紀に始めて日本を発見して以来織田、豊臣、徳川三氏を経て島原の内乱に至るまでの間、いわゆる西欧交通の初期とも称して然《しか》るべき時期を択《えら》んで、その部分
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