《かどの》に案内をさせて平岡夫婦に見せると、大抵|可《よ》からうと云ふ事で分《わか》れたさうだが、門野《かどの》は家主《いへぬし》の方へ責任もあるし、又|其所《そこ》が気に入らなければ外《ほか》を探《さが》す考もあるからと云ふので、借りるか借りないか判然《はつきり》した所を、もう一遍確かめさしたのである。
「君、家主《いへぬし》の方へは借《か》りるつて、断わつて来《き》たんだらうね」
「えゝ、帰りに寄《よ》つて、明日《あした》引越すからつて、云つて来《き》ました」
四の三
代助は椅子に腰《こし》を掛《か》けた儘、新《あた》らしく二度の世帯《しよたい》を東京に持つ、夫婦の未来を考へた。平岡は三年前新橋で分れた時とは、もう大分変つてゐる。彼《かれ》の経歴は処世の階子段《はしごだん》を一二段で踏《ふ》み外《はづ》したと同じ事である。まだ高い所へ上《のぼ》つてゐなかつた丈が、幸《さひはひ》と云へば云ふ様なものゝ、世間の眼《め》に映ずる程、身体《からだ》に打撲《だぼく》を受けてゐないのみで、其実精神状態には既に狂ひが出来てゐる。始めて逢つた時、代助はすぐ左様《さう》思つた。け
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