君は当事者《とうじしや》丈のうちで、名誉を回復する手段があるかと聞くんだね」
「左様《さう》さ」
「三千代さんの心機を一転して、君《きみ》を元《もと》よりも倍以上に愛させる様にして、其上僕を蛇蝎の様に悪《にく》ませさへすれば幾分か償《つぐなひ》にはなる」
「夫《それ》が君の手際で出来るかい」
「出来ない」と代助は云ひ切つた。
「すると君は悪《わる》いと思つた事を今日迄発展さして置いて、猶其|悪《わる》いと思ふ方針によつて、極端押して行かうとするのぢやないか」
「矛盾かも知れない。然し夫《それ》は世間の掟《おきて》と定めてある夫婦関係と、自然の事実として成り上《あ》がつた夫婦関係とが一致しなかつたと云ふ矛盾なのだから仕方がない。僕は世間の掟として、三千代さんの夫《おつと》たる君に詫《あや》まる。然し僕の行為其物に対しては矛盾も何も犯してゐない積だ」

       十六の九

「ぢや」と平岡は稍声を高めた。「ぢや、僕等|二人《ふたり》は世間の掟《おきて》に叶《かな》ふ様な夫婦関係は結《むす》べないと云ふ意見だね」
 代助は同情のある気の毒さうな眼《め》をして平岡を見た。平岡の険《けわ》し
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