食《く》つてゐた。茶碗を膳の上《うへ》へ置いて、門野《かどの》から手紙を受取つて読むと、明朝何時迄に御|出《いで》の事といふ文句があつた。代助は、
「御役所風だね」と云ひながら、わざと端書《はがき》を門野《かどの》に見せた。門野《かどの》は、
「青山《あをやま》の御宅《おたく》からですか」と叮嚀に眺めてゐたが、別に云ふ事がないものだから、表《おもて》を引つ繰り返して、
「何《ど》うも何《なん》ですな。昔《むかし》の人《ひと》は矢っ張り手蹟《て》が好《い》い様ですな」と御世辞を置き去《ざ》りにして出て行つた。婆さんは先刻《さつき》から暦《こよみ》の話《はなし》をしきりに為《し》てゐた。みづのえ[#「みづのえ」に傍点]だのかのと[#「かのと」に傍点]だの、八朔だの友引《ともびき》だの、爪《つめ》を切《き》る日だの普請をする日だのと頗る煩《うるさ》いものであつた。代助は固より上《うは》の空《そら》で聞《き》いてゐた。婆さんは又|門野《かどの》の職《しよく》の事を頼《たの》んだ。十五円でも宜《い》いから何方《どつか》へ出《だ》して遣《や》つて呉れないかと云つた。代助は自分ながら、何《ど》んな返
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