張り俯《う》つ向《む》いてゐた。代助は思ひ切つた判断を、自分の質問《しつもん》の上に与へやうとして、既に其言葉が口《くち》迄|出掛《でかゝ》つた時、三千代は不意に顔を上《あ》げた。其顔には今見た不安も苦痛も殆んど消えてゐた。涙《なみだ》さへ大抵は乾《かは》いた。頬《ほゝ》の色《いろ》は固より蒼かつたが、唇《くちびる》は確《しか》として、動く気色《けしき》はなかつた。其間《そのあひだ》から、低く重い言葉が、繋《つな》がらない様に、一字づゝ出《で》た。
「仕様がない。覚悟を極《き》めませう」
代助は脊中《せなか》から水《みづ》を被《かぶ》つた様に顫《ふる》へた。社会から逐ひ放《はな》たるべき二人《ふたり》の魂《たましひ》は、たゞ二人《ふたり》対《むか》ひ合つて、互《たがひ》を穴の明《あ》く程眺めてゐた。さうして、凡《すべ》てに逆《さから》つて、互《たがひ》を一所に持ち来《き》たした力を互《たがひ》と怖《おそ》れ戦《おのの》いた。
しばらくすると、三千代は急に物に襲はれた様に、手を顔《かほ》に当《あ》てて泣き出《だ》した。代助は三千代の泣《な》く様《さま》を見るに忍《しの》びなかつた。肱
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