云ひ、声の低《ひく》い底《そこ》に籠《こも》る力《ちから》と云ひ、此所《こゝ》迄押し逼《せま》つて来《き》た前後の関係と云ひ、凡ての点から云つて、梅子をはつと思はせない訳に行かなかつた。嫂《あによめ》は此|短《みじか》い句《く》を、閃《ひら》めく懐剣の如くに感じた。
 代助は帯《おび》の間《あひだ》から時計を出して見た。父《ちゝ》の所へ来《き》てゐる客は中々《なか/\》帰りさうにもなかつた。空《そら》は又|曇《くも》つて来《き》た。代助は一旦引き上《あ》げて又|改《あら》ためて、父《ちゝ》と話《はなし》を付《つ》けに出直《でなほ》す方が便宜だと考《かんが》へた。
「僕は又|来《き》ます。出直《でなほ》して来《き》て御父《おとう》さんに御目に掛《かゝ》る方が好《い》いでせう」と立ちにかかつた。梅子は其|間《あひだ》に回復した。梅子は飽く迄人の世話を焼く実意のある丈に、物を中途で投《な》げる事の出来ない女であつた。抑《おさ》える様に代助を引《ひ》き留《と》めて、女の名を聞いた。代助は固より答へなかつた。梅子は是非にと逼つた。代助は夫《それ》でも応じなかつた。すると梅子は何故《なぜ》其女を貰
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