め》を極《き》めるものは自分以外にあらう筈はなかつた。代助は、最後の権威は自己にあるものと、腹《はら》のうちで定《さだ》めた。父《ちゝ》も兄《あに》も嫂《あによめ》も平岡も、決断の地平線上には出《で》て来《こ》なかつた。
 彼はたゞ彼《かれ》の運命に対してのみ卑怯であつた。此四五日は掌《てのひら》に載《の》せた賽《さい》を眺《なが》め暮《く》らした。今日《けふ》もまだ握《にぎ》つてゐた。早く運命が戸外《そと》から来《き》て、其|手《て》を軽く敲《はた》いて呉れれば好《い》いと思《おも》つた。が、一方《いつぽう》では、まだ握《にぎ》つてゐられると云ふ意識が大層|嬉《うれ》しかつた。
 門野《かどの》は時々《とき/″\》書斎へ来《き》た。来《く》る度《たび》に代助は洋卓《デスク》の前に凝《じつ》としてゐた。
「些《ちつ》と散歩にでも御出《おいで》になつたら如何《いかゞ》です。左様《さう》御勉強ぢや身体《からだ》に悪《わる》いでせう」と云つた事が一二度あつた。成程|顔色《かほいろ》が好《よ》くなかつた。夏向《なつむき》になつたので、門野《かどの》が湯《ゆ》を毎日|沸《わ》かして呉れた。代助は
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