三千代の退屈といふ意味は、夫《おつと》が始終|外《そと》へ出《で》てゐて、単調な留守居の時間を無聊に苦しむと云ふ事であつた。代助はわざと、
「結構な身分《みぶん》ですね」と冷《ひや》かした。三千代は自分の荒涼な胸《むね》の中《うち》を代助に訴へる様子もなかつた。黙《だま》つて、次《つぎ》の間《ま》へ立《た》つて行《い》つた。用簟笥の環《くわん》を響《ひゞ》かして、赤《あか》い天鵞絨で張《は》つた小《ち》さい箱《はこ》を持《も》つて出《で》て来《き》た。代助の前《まへ》へ坐《すは》つて、それを開《あ》けた。中《なか》には昔し代助の遣《や》つた指環がちやんと這入《はい》つてゐた。三千代は、たゞ
「可《い》でせう、ね」と代助に謝罪する様に云つて、すぐ又立つて次《つぎ》の間《ま》へ行《い》つた。さうして、世《よ》の中《なか》を憚《はゞ》かる様に、記念の指環をそこ/\に用簟笥に仕舞つて元《もと》の坐に戻つた。代助は指環に就ては何事も語《かた》らなかつた。庭《には》の方を見て、
「そんなに閑《ひま》なら、庭《には》の草《くさ》でも取《と》つたら、何《ど》うです」と云つた。すると今度は三千代の方が黙
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