じ》み出《だ》した。代助は格子の外《そと》から、三千代の極《きわ》めて薄手《うすで》な皮膚を眺めて、戸の開《あ》くのを静かに待《ま》つた。三千代は、
「御待遠さま」と云つて、代助を誘《いざな》ふ様に、一足《ひとあし》横《よこ》へ退《の》いた。代助は三千代とすれ/\になつて内《うち》へ這入《はい》つた。座敷《ざしき》へ来《き》て見ると、平岡の机の前《まへ》に、紫《むらさき》の座蒲団がちやんと据《す》ゑてあつた。代助はそれを見た時|一寸《ちよつと》厭《いや》な心持がした。土《つち》の和《な》れない庭《には》の色《いろ》が黄色《きいろ》に光《ひか》る所に、長《なが》い草が見苦しく生《は》えた。
代助は又|忙《いそ》がしい所を、邪魔に来《き》て済まないといふ様な尋常な云訳《いひわけ》を述べながら、此無趣味な庭《には》を眺めた。其時三千代をこんな家《うち》へ入れて置《お》くのは実際気の毒だといふ気が起《おこ》つた。三千代は水《みづ》いぢりで爪先《つまさき》の少《すこ》しふやけた手《て》を膝《ひざ》の上《うへ》に重《かさ》ねて、あまり退屈《たいくつ》だから張物《はりもの》をしてゐた所だと云つた。
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